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癌研究の先駆者
 

 顕微鏡を覗き続け「がんは一つの細胞からでも再発する」「がん細胞には個性がある」「がんは全身病である」など、がんの本態を明らかにした富三は、がんの化学療法への道も切り拓いた。

 薬物や色素が、がん細胞に障害を与えることに気づいた富三は、吉田肉腫を使って、がんの化学療法に取り組み、昭和27年、日本で最初の制がん剤、ナイトロミンの開発に成功した。それまでのがん治療は外科による手術と放射線照射のみしかなかったが、吉田肉腫が、がんに効く薬物の効果を客観的に測定することを可能にしたのである。これを契機に、がんの化学療法は目覚ましい進歩を遂げることになった。

「吉田肉腫」昭和天皇の天覧を賜る1951年(昭和26年)
富三は東京帝国大学(病理学教授、昭和19年)、財団法人佐々木研究所(所長、同28年)、東京大学(医学部長、伝染病研究所教授兼任、同33年)、財団法人癌研究会癌研究所(所長、同38年)などを歴任、生涯にわたってがん研究の先導者としての役割を果たし、昭和48年、70歳で世を去った。富三の研究は多くの医者によって引き継がれ、がん克服の課題に向けて、確かな歩みとして発展している。